東部協設立前史 

2009年の6月、私(白柳専務理事)は銀座2丁目にある東京都中小企業団体中央会へ、地域(自動車)部品商による事業協同組合設立の最初の相談のため訪問した。この地域部品商と言う業態は一般には殆ど知られていないので「どのように説明しようか」と悩みながらの訪問であったが、名刺交換した後に、先方の職員より出て来た言葉は「今回は大丈夫そうですか?」と言うもの。

私は「ええ・・・今回は?・・以前にあったのですか?」と聞き返してしまった。

「1970年代の中盤に最初の相談があり、1983年頃まで何回か説明会を開催しましたが、ついに全体の意思をまとめる事ができず断念したのです」とのこと。

私は驚いて組合の古老を訪ねて当時の話を聞きました。すると・・・。

「最初は事業協同組合を作ろうという話だった。1976年に東京の自動車整備工場の団体が整備商工組合を設立したので、部品商も商工組合か協同組合を設立しようという動きだった」。

「それが大阪の方から社団法人を作るから、その傘下に入る東京の地方団体を作ってくれ・・・。という話があってから方向が変わって来た。この方が政治的にも有利なんじゃないか?と歓迎する社長と、あくまで事業協同組合を作りたい社長と、俺は自分だけでやるよという社長に分かれた」「その後は大阪方面から早く全国団体(全部連)を作りたいから東京組合を作れ、早く話をまとめろ・・・の矢の催促」

こうして都内の3つの部品商組合が合併して1977年12月に任意団体として東京都自動車部品商組合を結成、続いて1979年の全国組織として全部連(社団法人全国自動車部品小売商団体連合会)の結成に合わせて東京組合として参加することになった。

しかし、全部連の傘下に入った後も「あくまで事業組合を作りたい派」は1980から活動を再開して1983年には準備委員会を設立している。

「同じ物」を「同じ価格」で買えない現実

「一物一価の法則」という言葉がある。完全競争の下では、同じ品質の商品は、同じ時点かつ同じ市場においては、同一の価格になるという経済法則。無差別の法則ともいう。

同一労働が同一賃金であるべきなのと同じように、同一商品を同一価格で購入できなければ、小売店は正当な競争関係を維持できない。例えば100円ぐらいで販売される商品を、ある店は40円で仕入れているのに、50円で仕入れている店は極めて苦しい競争を強いられる。

しかし、その同一商品を60円で仕入れている店、70円で仕入れている店もある。さらに零細を理由に卸売会社の基準により、そもそも購入できない店もある。このような店は「競争に負けて自然淘汰される」「弱肉強食の世の中だから」・・で良いのか?

同一商品を同一価格で購入できて、初めて小売店の「お客様へのサービス競争」が機能するのである。親切・丁寧・正確・迅速で価格が明確な小売店が競争上、優位になる。

しかし、日本には米国のロビンソン・パットマン法(メーカーや卸売業者は基本的に全ての取引相手に同一品質の商品は同一価格で販売しなければならないという法律。大量購入の場合には梱包費、物流費の差額=実費のみが価格差となる)のような法律がないので、極めて恣意的な価格差別が横行している。

こうした環境に於いて、零細な部品商は比較的大手の部品商を通して購入(枝番)するしか、市場競争に参入する事も不可能であった中で、この大手部品商の役を協同組合の共同購買プログラムで行うことが志向された。

この場合、組合の共同購買は①卸商社のように中間マージンは取らない②組合員企業の規模の大小に関わらず、購入量の大小に関わらず「同一商品は同一価格」で供給するの2点を基本原則としている。

相互扶助の精神

昭和24年に制定された中小企業協同組合法の第一章第一条には、以下のように記されている。

この法律は、中小規模の商業、工業、鉱業、運送業、サービス業その他の事業を行う者、勤労者その他の者が相互扶助の精神に基き協同して事業を行うために必要な組織について定め、これらの者の公正な経済活動の機会を確保し、もつてその自主的な経済活動を促進し、且つ、その経済的地位の向上を図ることを目的とする。

まず、第一に重要なのは「協同して事業を行う組織」であると言うことである。

事業(商売)を行わないと協同組合としては認められない。懇親会や政治運動をする組織ではないのである。以前の任意団体の場合は、協同して事業を行う事はなかった。事業は各社がバラバラに行い懇親会や情報交換は行うが、意見をまとめて対外的に発信しとうと思っても、意見の統一が取れずに不可能に終わる事が多かった。

2009年に東京都中小企業団体中央会に相談した時に言われたのは「具体的な事業計画を策定して下さい」との事。これが完成したら「中央会が評価し、東京都に推薦します」。

「その後、設立発起人が都庁に出掛けて東京都の担当者からヒアリングを受け、納得頂いたら認可されます。絵に描いた餅のような空虚な作文では、納得頂けないでしょう」と言われ、同年の6月から12月まで半年を掛けて事業委員会にて何回もの会議を行った。

その甲斐があり、12月に東京都庁でのヒアリングを経て、2011年の2月には東京都知事(当時は石原知事)が東京自動車部品商協同組合の設立を認可したのである。後で聞いた話では、協同組合の設立を希望する団体が多く、東京都の場合は10団体の中で1団体が認可されるレベルの「狭い門」との事。

以下にポイントをまとめると。

1,分類すると協同組合は株式会社と同様に「企業」である。

2,法務省にも登記しているし、会社法人番号もある。

3,国税庁及び東京都へ税金も申告し納税している。

4,株式会社の場合、株主は資本を投下するだけであるが、協同組合は出資金を入れてから協同事業に参加する。

5,その事業は相互扶助の精神に基づき協同で行う事業である。相互扶助とは「お互いが助け合う」という意味で、このような精神が無ければ協同組合は成立しない。

事業計画に同意するメンバーでスタート

東京都の認可を得てから旧組合員に説明会を実施した。

1983年の時の失敗は、任意団体の組合員全体を事業協同組合に移行させようとしたからである。

当時、100社を超える組合員の意思を統一することは無理であった。

そこで今回は、趣旨に賛同する旧組合員だけが参加する「選択制」とした。

その結果、旧組合48会員の内、26会員が参加する事になる(54%)。

ただし、共同購買をメインの事業とするため、もともと良い条件で商品を仕入れている大手の部品商は、既に組合員共同購買価格より低価格で仕入れている場合が多いため加盟するメリットがなく「零細規模の業者との同一商品=同一価格は嫌だ」との話も出た。

加盟した26社は「組合の共同購買によりわが社の仕入れ価格が下がった」という組合員がメインであり、大手の組合員の場合は品質・納期などを意識して仕入れている場合が多い。 

組合員が儲かるようにするのが使命で、
組合は儲けてはいけない

共同購買の仕組みは組合認定の仕入先と組合員とのビジネスであり、組合は組合員への販売促進と購入代金の集金を行う。

仕入先(数社)からの請求書は組合本部に一括して届き、これを組合員別に分類して、組合員に送付する。この請求金額は仕入先より組合員各社分として請求のあった商品代金(消費税含)。組合はこれを原価にて組合員に供給するため「事業者が事業として対価を得て行う資産の譲渡」には該当せず、消費税の課税対象にはならない。

組合が商社のように中間マージンを取れば、販売価格は高くなるだけでなく消費税の対象にもなる。

組合は組合員が儲かるように企画するのが使命であり、組合本部は儲けてはいけないのである。

また、組合の販売先は組合員に限定される。組合員以外に販売することは原則的に許されていない。

「自由市場に広く売る商売」がある一方で「限定した購買者に販売する商売」もある。

組合は後者の商売である。

組合認定の仕入先は、こうした協働組合の事情を理解して、相互扶助の精神でお付き合いできる事業者である。