渉外事業について

中小・零細事業者は社会的経済的に弱い立場に立たされており、取引に当たっては相手方との力関係から様々な不利益な条件を付される事が多い。協同組合が設立される前は、それぞれの地域部品商の代表者が個別に、大手の取引先から示される「取引条件の変更」に対して対応していた。

しかし、地域部品商は毎朝、店を開ければ顧客が商品を買いに来るような業態ではない。車両の不具合があり、自動車ユーザーが近所の自動車整備工場に車両を持ち込む。当然、ユーザーは仕事や通勤に使っているから「早く直してね」と要望。整備工場のメカニックは不具合や故障が発生した原因を探求して、修理方法を策定する(トラブル・シュート)。そこで部品交換が必要なら地域部品商に注文する。当然、急ぎの注文である。

地域部品商の代表者は部品注文の電話を取り、整備工場のメカニックからの相談に応じて、部品を探して取りに行き、最終的にはお客様の工場に届けている。

社長が社長室に収まり、実務は部下に任せている業態とは異なる。さらに人手不足は長期にわたり慢性化している。そのため社長も現場の戦力なのである。

契約書を見る時間が無く、
検討する時間も無い

そのため「商品取引基本契約書」の変更に係わる文書への捺印をを既存の取引先から求められても、なかなか見る時間も無く、相談する相手も無く、検討も出来ないのが実情であった。そこで「そろそろ新契約に捺印頂く期限が来ました」「御社以外の部品商は皆さん捺印しました」・・・相手側の営業マンに言われて「そうか」とめくら判を押していたのが組合設立前の実情であった。

渉外委員会の設立

渉外とは外部と連絡を取り交渉や折衝を行う事。交渉相手と駆け引きする事・・・と辞書にある。弱小・零細企業の集まりである地域部品商が何の交渉も駆け引きも行わず、めくら判を押していたのでは、ただでさえ弱い経済的立場がさらに弱くなるのは明らかである。そのため組合内に渉外委員会を設置し、弁護士と顧問契約して、個々の組合員が契約書に捺印する前に法的に照査してもらう。問題があれ渉外委員会より相手側に指摘するようにした。

この事業を始めた当初は相手側より「我々は個々の組合員と個別に契約しているのであり、組合とは契約していない」との拒否反応が必ず発生した。

団体協約の締結

中小企業等協同組合法第9条の2は、事業協同組合が行うことができる事業内容を列記してあるが、その1項6号に「組合員の経済的地位の改善のためにする団体協約の締結」が記されている。

さらに、12項には事業協同組合の「組合員と取引関係にある事業者(小規模の事業者を除く)は、その取引条件について、事業協同組合の代表者が政令の定めるところにより団体協約を締結するための交渉をしたい旨を申し出たときは、誠意をもってその交渉に応じるものとする」と定められている。

組合は「組合員と取引関係にある事業者」との交渉が可能なのである。

このような条文が定められた意図について、同法の遂条解説によると「中小企業が組合を組織し、歩調を合わせて事業活動を行おうとする場合において、これを乱されることは、組合の運営上著しく支障をきたす。したがって、法は組合が組合員の競争力を補強するための手段として団体協約の締結事業を認めている」と記されている。

相手方の事業者者は「小規模の事業者を除く」とある事から組合員の経営に大きな影響を与える大企業である。また、交渉の結果、合意された団体協約が及ぶ範囲は、同法9条の2 14項に「直接に組合員に対して、その効力を生じる」とあり、同業の非組合員には及ばないのである。あくまで組合員の経済的地位の改善が目的である。

組合としても、大手企業の都合により取引条件が変更され、組合員の経営が悪化すれば、組合の事業活動に大きな影響を及ぼすのを防ぐ、あるいは影響を最小限に止めることが重要と考えている。

東京都への調停の斡旋

同法9条の2の2には行政庁による「あつせん又は調停」について定められている。条文は以下の通り。

  1. 前条第12項の交渉の当事者の双方又は一方は、当該交渉ができないとき又は団体協約の内容につき協議が調わないときは、行政庁に対し、そのあつせん又は調停を申請することができる。
  2. 行政庁は、前項の申請があつた場合において経済取引の公正を確保するため必要があると認めるときは、すみやかにあつせん又は調停を行うものとする。
  3. 行政庁は、前項の規定により調停を行う場合においては、調停案を作成してこれを関係当事者に示しその受諾を勧告するとともに、その調停案を理由を付して公表することができる。
  4. 行政庁は、前2項のあつせん又は調停については、中小企業政策審議会又は都道府県中小企業調停審議会に諮問しなければならない。

組合は過去に1回(2016年)、この法律に則り東京都への調停を斡旋した。

この時の「東京都中小企業調停審議会」の答申は「あっせん又は調停の必要は認められない」との結論になった。組合はこの決定に不満であり、東京都行政不服審議会に対して不服申し立て(審査申請)を提出した。

https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/12houmu/huhukusinsakai.html

これに対して同審査会は答申を発表(2018年5月)。「調停、あつせんは行うべきである」との組合側の主張を全面的に認める内容となった。この答申は東京都のホームページにも掲載された。

https://www.soumu.metro.tokyo.lg.jp/12houmu/pdf/toushinnaiyou/30/294.pdf

相互理解の促進

組合は、組合員の経済的地位の改善のために、組合員の取引先企業と団体協約の締結を推進して来た。この分野は委員会を設置して合議制にて事業を推進する体制とし、相手先に対して「通知書」「連絡書」を送付する場合も「誰に送るべきか」「内容はこれで良いのか?」を臨時総会を開催して組合員全員で協議している(新型コロナの影響により2020年以降はアンケートによる書面総会としている)。

今後、補修部品市場の環境はますます厳しくなるものと予想される。過去11年間の交渉の成果を生かしつつ、大手仕入先に地域部品商の経営を知って頂き、相互理解の促進を図るため定期的な懇談会・情報交換会が実施できるよう働き掛けを続ける所存である。